屋上の掃除を終え、楽屋へ戻ろうと豪奢な装飾のエレベータの前で待っていた新次郎に、後ろから声をかけた者がいた。
「ハァイ、大河くん」
「あ、こんにちはサニーサイドさん」
 いつもの白のダブルスーツに片手を挙げて立っている。今日のワイシャツは青だった。
「お掃除ご苦労様」
「ははは……ジェミニが星組になって掃除する人がいなくなっちゃいましたからね」
 以前はセクシーな制服を着てシアターを明るく掃除していたジェミニも、今では紐育歌劇団の一員として舞台に大忙しだ。秘密部隊が易々と人を雇い入れられるわけもなく、自然と彼女の担当していた仕事はシアターが開くまでは暇な新次郎が受け持つことになっていた。
「サニーさんはお出かけですか?」
 昼寝しているかラチェットに厳しく睨まれて書類にサインしているかで、日がな司令室に詰めているサニーサイドが外に出て来ていると言うことは余所で用事があるのだろう、そう考えた新次郎に、サニーサイドは首を縦に振った。
「面倒な会食の席に出なきゃいけなくてね」
 やれやれと言うように肩をすくめると、ようやく到着したエレベータに乗り込む。ドアが閉まらないようにボタンを押していた新次郎も続けて乗り込んだ。ロビーのボタンを押すとウィィ……ンと機械音がしてドアが閉まり、エレベータが下降を始める。
「このままエレベータが止まれば、つまらない昼食はすっぽかせるし大河くんと二人きりだしで、言うことないんだけどなぁ」
 密室になると、すかさず新次郎に後ろから抱き付いて頬擦りしつつ、溜め息をつくサニーサイドに、新次郎は苦笑いで答える。
「そんな都合のいいことあるわけないじゃないです」
 か、と言った瞬間にエレベータがガタンと大きく揺れた。突然の闇が辺りを包む。地面が急に消え失せたかのように落下した。
「うわぁぁっ」
「大河っ」
 不意を突かれ、新次郎は大きくバランスを崩した。転ぶ寸前でサニーサイドの腕が伸び、それに掴まえられた新次郎は身体ごと引き寄せられた。


                          sampleおわり