ゆっくりと太陽が昇っていく紐育の街中を、新次郎は袴姿でセントラル・パークを目指しランニングに勤しんでいた。

季節はまだ春を迎えたばかりで、紐育の街は肌寒いときが多いが、走っていれば体は次第に汗ばむくらいになる。そうなると、逆に首元を通り抜けていく風が、火照った体を冷ます心地よい涼風となる。

安息日である日曜の早朝であるということもあり、すれ違う人々は皆同じようにランニングをしている人ばかりだ。中には見覚えのある顔もあり、新次郎に「モーニン!」と気さくに声をかけてくるランナーも多かった。

新次郎はその一人一人に微笑みと挨拶を返しながら、やがて見えてきたセントラル・パークの鮮やかな緑に目を細めた。

朝の光を浴びてきらきらと輝く木々は、なんだかとても嬉しそうだ。見るたびにその濃さを深める緑が、夏の訪れを感じさせて、新次郎も心が弾むのだった。

(キャメラトロンで写真を撮って、母さんに送ったら喜んでくれるかな)

新次郎はそんなことをうきうきと考えながら、セントラル・パークの森の中に走りこんでいった。

木漏れ日の眩しい広々とした遊歩道を、自分のペースを守って走っていると、小鳥のさえずりが聞こえてくる。チチチ、と人間にはわからない言葉で楽しげに囀り合う鳥たちの声を聞いていると、新次郎は小鳥が大好きなダイアナの気持ちがわかる気がしていた。

(今日も良い一日になりそうだ! よしっ、がんばるぞ!)

自然とにこにこしながら走り続けると、やがて、いつもダイアナが近くに座っている木が見えてきた。しかし、彼女の姿は見当たらない。

(あれ? どうしたんだろう)

特に約束をしているというわけではないが、毎週ここで会って、一休みがてら雑談をするのが習慣だった。寝坊するような性格ではないし、具合でも悪いのかな、と思いつつゆっくりとペースを下げ、汗を拭うべく手拭いを取り出そうとしていると、
「グッモーニン、大河くん! いい朝だね」




                           sampleおわり